ねむがじぇのネコトオルです(@nemgadjet_camp)
今回は懐かしガジェットということで、テキストエディター、ポメラDM10の話をしたいと思う。
ポメラ。それはキングジムが2009年から発売しているテキストエディタだ。発売当時かなり話題を呼んだガジェットで、多機能化が進みスマホが登場し始めたくらいの時代にテキスト入力機能だけで勝負するという思い切りの良さが気持ちいい漢気あふれる一品だ。
当時高校生だった僕はラノベにめちゃめちゃはまっていた。通学中にとらドラを読み、狼と香辛料を読み、バカとテストと召喚獣を読み耽っていた。高校生だったからお金もあまり無くて500円ちょっとで長く楽しめるラノベは本当にお世話になった。ハルヒやシャナは好みのジャンルではなかったがクラスメートに借りたりして読んだし、ラノベは僕の青春の1ページだ。
そして多感な時期だからすぐに影響されて自分も何かを書いてみたいと思った。ワクワクする展開を自分で作ってみたいと思った。居間にあるパソコンで色々と書いてみたり、暇なときに紙に書いてみたり。ネットに発表してみて反応に一喜一憂したり。いわゆるワナビ(ラノベ作家志望のことをそう表現する)だった。思い返すと恥ずかしさで死にそうになるが、それはそれで楽しい思い出だ。
そんなワナビ高校生だった僕だが、自宅のPCだと不満を感じるようになっていた。使える時間は限られているし、いつでも書ける環境が欲しいと感じていた。ネット小説を書くには当時はガラケーを使う手段もあったけど、やっぱり欲しいのはパソコンだった。ノートパソコンであれば電車の中でも執筆することができるし、電車の中でパソコンを広げる人を見てなんだかできる人みたいでかっこいいと思ったりしたものだ。
しかし2010年当時のノートパソコンは高校生にはとても手が出る代物ではない。我が家は誕生日にはプレゼントを買ってもらえることになっていたがノートパソコンでは予算をかなり超える。
そこで思いついたのが当時話題を呼んでいたポメラだ、ぱっと見は電子辞書みたいな見た目をしているし、値段は単機能のテキストエディターとして見るとお高めだがノートPCと比べればお手軽な部類だ。ノートパソコンと比較してこちらを買って欲しいとお願いしたのだ。
購入してもらったのは初代ポメラDM10。ポップな見た目に折りたたみキーボードという機構がとてもワクワクさせるガジェットだ。初代ということもあってエッセンスは研ぎ澄まされている。ポップなオレンジ色でコンパクトな筐体は持ち運ぶにも楽しい。
そして折り畳み式で展開されるパンタグラフキーボードはキーピッチも最低限確保されていて打ち心地も十分実用に耐えうるレベル。そして電源は乾電池駆動ということでいつでも電池切れに対応できるという点でマル。
初代ポメラは尖りまくっていてデータ通信なんて機能すらないのだが、データ保存用にmicroSDが挿せるので当時のガラケーでファイルを読み込んでそのままネットにアップロードすることだってできた。単機能テキストエディターとはいえ押さえるところはしっかりと押さえていて、使い方によって可能性がとても広がるガジェットだった。
電車の車内で颯爽とポメラの折りたたみキーボードを展開するときはちょっと自慢気な気持ちだったし、なんだかかっこいいことをしているような気分になれた。そして隙間時間に執筆できるようになったことでネット小説の方も拙いなりに反響を得ることもあったりして順調に進んでいたかに思えた。しかしワナビはとある悲劇に陥ってしまった。
完結させることができない。
小説に限らず始めた物事をやり切るというのは大事だが、小説ほど終わらせることが難しいものもそうないと思う。小説を書く際にはプロットという物語の骨子を書くのだけれど、書いているうちにその通りでいいのかという疑問が生まれてくるのだ。そして軌道修正をしたりしているうちに、そもそもこの話ってそんなに面白くないんじゃないか、と思って筆が折れてしまう。これはワナビあるあるなのだが僕は見事にこのパターンにハマっていた。
当時書いていたネット小説は連載の形式をとっていたので過去に遡って作品を変更することはできなかった。短編は勢いで書けるが、連載は全く勝手が違った。焦りが生まれ、楽しく小説を書いていた頃が嘘のように追い詰められた気分になった。楽しさとワクワクの勢いで400KBも書いた自分の愛しい作品が色褪せていく瞬間はとても辛かった。完結までは残り50KBもなかっただろう。しかし僕には書くことができなかった。今でもその小説は最終話だけ残したまま更新を止めている。
筆が折れていく過程でポメラを触る機会も減っていった。ラノベを読むことは高校を卒業して大学生になってからも続いていたけれど、その頃にはノートパソコンを持つようになっていて、ポメラは出番が無くなっていた。
さらにその後、コミケで小説を発表することがあった。オタクの祭典コミックマーケット。文庫本形式で70P程度の二次創作小説だ。作業に使ったのはポメラではなく、ノートパソコンだった。ノートパソコンなら表紙イラストを作成することだってできたし、ワードで挿絵を入れた状態で小説を作成することだってできた。締切に追われすぎてコミケへ向かう新幹線の中で死にそうな顔をしてイラストを描いたりもしていた。そして、テキスト入力のみというストイックなガジェットは押し入れの奥にしまわれてしまった。
あれから10年近く経ち、YouTubeで何か紹介するガジェットがないかと実家を漁っていたらポメラが出てきた。少し苦い青春の思い出が蘇る。
初代モデルDM10はラバーコーティングが多用されていて、経年劣化で加水分解してベタついてしまう。ネタになりそうか考えながら、ねちょねちょした触感に耐えつつ折りたたみキーボードを開く。折りたたみ部分はヒンジが折れていてうまく開かない。それでもなんとかヒンジを支えながらキーボードを開く。電源は入らない。10年も放置されているのだから電池切れは当然だ。だが単4電池を入れてみるとすんなりと電源が入った。
起動と同時にパスワードを要求された。ポメラはセキュリティとして起動時にパスワードを要求することができるのだ。10年以上前の自分が設定したパスワードだ。どんなパスワードを設定したかなんて全く記憶にない。
それでも半壊しつつもなんとか展開したキーボードに正対して、ホームポジションに指を添える。10年以上前の感覚が少し蘇る。記憶にもなかったパスワードは体が覚えていてあっさりと解除できた。モノクロの画面が表示される。そこには当時連載していたネット小説や、お試しで投稿した短編小説などの作品達が残っていた。
特に文筆業でもなくスキルが進化しているとも思えないが、当時の作品は読んでいて身悶えするのでとても最後まで読めたものじゃない。読めないのだが何を書いたかしっかりと覚えているので読まなくてもしっかりと心にダメージを負った。そして全く覚えていなかったが、当時の日記なんかも残っていたりして忘れていた思い出なんかも掘り起こせた。当時の文章のノリがアラサーには辛くて精神にダメージを負いまくっている。
パスワードでロックされていた 当時の日記が出てきた
今はスマホでもなんでも多機能化してマルチでユーティリティな使い方ができるガジェットがほとんどだろう。そちらの方が便利だからだ。だけど高校生の多感な時期にポメラという文章入力しかできないガジェットに出会い、小説だったり日記だったりといったことに打ち込めたのはとてもいい経験ができたのだと思う。
このブログの文体も流行に合わせようとしてみたり色々試行錯誤しようとしたが、結局10年前とあまり変わらない書き口の方がしっくりくるのだ。進歩していないんだな、と思う一方で断続的ではあるが自分が10年前の延長線上にいるのだなという感覚は不思議と悪くない。
そんな思い出深い初代ポメラだが、後継機種が現在も発売されている。テキストエディタというシンプルな機能に絞ったガジェットはとてもニッチだ。それにも関わらず10年以上発売されているのは根強い支持があるからだろう。
ポメラはマルチ化が進んだ現代で純粋に文章と向き合うことができる貴重なガジェットだ。単機能でやることに迷いがなくなるというのは結構いい経験だ。体験して見ると新しい発見があるかもしれない。ノートパソコンが当たり前に使える今だからこそ、こういったストイックなガジェットを持つことには意味を見出せるだろう。ただし、現行モデルは結構高いので自分には当分縁がなさそうではある。。。